カタカナの「アグー」は沖縄在来種の豚そのもの、ひらがなの「あぐー」はJAおきなわの登録商標で、証明されたアグーの雄を交配し、品質基準を満たした豚肉に付く名称です(証明書と認定シール付き)。1981年にわずか約30頭だった在来種を戻し交配で復元し、推進協議会の統計では638頭(令和7年度・飼養頭数)。英語は Agu pork、定まった漢字表記は確認できていません。店頭・メニューでの見分け方と代表ブランドを解説します。
じつは、「アグー」という言葉の裏には知れば知るほど面白い世界が広がっています。今回は、アグーをもっと楽しむために知っておきたいことを、まるごと解説します。
アグー豚と「あぐー豚」の違いは?——カタカナとひらがなで別物
まず驚く人が多いのが、表記の違いです。カタカナの「アグー」は沖縄在来種の豚そのもの。ひらがなの「あぐー」はJAおきなわの登録商標で、証明されたアグーの雄を交配し、品質基準を満たした豚肉の名称——じつは定義がまったく異なります。
カタカナの「アグー」は、琉球王国の時代から沖縄に根付いてきた在来種の豚そのものを指します。一方、ひらがなの「あぐー」はJAおきなわ(沖縄県農業協同組合)の登録商標(1996年取得・登録第3231695号)で、家畜改良協会が証明した在来種アグーの雄を交配した肉豚のうち、JAおきなわ銘柄豚推進協議会の品質基準を満たしたものに使われる名称です。JAおきなわ銘柄豚推進協議会は、この条件を「アグーの血液(雄方)を50%以上有すること」と説明しています。母には西洋豚も使われるため、純粋なアグーとは限りません。認定された豚肉には証明書が交付され、認定シールが付きます。
豚肉の販売で「アグー」「あぐー」「AGU」の名称を使えるのは、JAおきなわと商標の使用許諾契約を結んだ事業者だけです。ただし、表記だけでは純粋種かどうかや認定の状況までは分かりません。ブランド名・生産者名と、認定シールや証明書を確認するのが確実です(下の「見分け方」で説明します)。
英語と漢字では何と書く?
英語で説明するときは Agu pork と書きます(個別ブランドの英語名は、生産者の表記を確認してください)。漢字は、JAおきなわと推進協議会の資料では「アグー」「あぐー」の表記だけで、定まった漢字表記は確認できていません。名前の由来には粟国島(あぐにじま)説があり、国立国会図書館のレファレンス協同データベースに登録された事例(蒲郡市立図書館)でも『うまい肉の科学』の記述として紹介されています。
一度は30頭まで減った、奇跡の豚
アグーがここまで話題になる理由は、その波乱万丈な歴史にもあります。14世紀末に中国から琉球へ渡ってきたとされるアグーは、琉球王国の時代から人々の食を支え、お祝いの席には必ず登場するほど、沖縄の文化に深く根ざした存在でした。戦前の沖縄は全国一の養豚地で、豚全体で約14万頭(1938年)が飼われていましたが、沖縄戦後の1946年にはその1割以下に激減します(内閣府の資料による)。
戦後は本土やアメリカから導入された西洋種に置き換わり、在来のアグーはほとんど姿を消しました。推進協議会の説明によると、転機は1981年。名護博物館の全県調査で確認できたアグーは、約30頭。そのうち18頭を県立北部農林高等学校に集め、約10年かけて戻し交配で雑種化した形質を取り除き、在来の姿を取り戻しました。2011年には「沖縄アグー豚証明規程」が設けられ、戦前に近い形質を備えた豚が「沖縄アグー豚」として定義されています。沖縄県アグーブランド豚推進協議会の統計(飼養者からの報告を集計した飼養頭数)では、沖縄アグー豚は638頭・24戸(令和7年度)。1,247頭(平成28年度)から減少傾向にあり、希少さは今も変わりません。一方、アグーブランド豚の指定生産農場からの出荷は年44,526頭・13農場(同年度)で、在来種を守る取り組みと、ブランド豚肉を届ける生産は別の数字です。
絶滅の危機を乗り越えてきた豚だからこそ、一口ひとくちに重みがある——そう感じる食通が多いのも、アグーならではです。
なぜブランドがいっぱいあるの?
アグー系のブランド豚は、沖縄県アグーブランド豚推進協議会が認めた指定生産農場で生産されます。ひらがなの「あぐー」は、そのうちJAおきなわの商標と品質管理の下にある豚肉です。その上で各生産者が独自のこだわりを加えてブランド化しているため、複数のブランドが存在します。
飼育環境・飼料・交配の血統割合・肥育期間——それぞれ生産者ごとのポリシーが異なるため、同じ「アグー系」でも個性が出ます。「どのアグーを食べるか」は、ワインの産地を選ぶような感覚に近いかもしれません。
店頭・メニューでの見分け方は3つ
- 表記を見る。カタカナの「アグー」は在来種の名前、ひらがなの「あぐー」はJAおきなわの商標。豚肉の名称としては、どちらも許諾を受けた事業者だけが使えます(「AGU」も同じ)。ただし表記だけでは認定の有無は分からないので、2と3も確かめます。
- 認定の印を見る。JAおきなわの「あぐー」は、品質基準を満たした豚肉に証明書が交付され、認定シールが付きます。県の推進協議会が認めたアグーブランド豚は、協議会のサイトにブランド名の一覧があります(又吉アグー・やんばる島豚あぐー・紅あぐー・キンアグーなど、カタカナ・ひらがなの両方の名前が並びます)。
- ブランド名から血統を確かめる。ブランド豚は雄の沖縄アグー豚に、雌の沖縄アグー豚または西洋豚を交配して生まれます。交配の組み合わせは農場ごとに違うので、純粋種に近いかどうかは各ブランドの公表情報で分かります。下の代表ブランドの紹介では、公表情報で確認できたことだけを記しています。
代表的なアグーブランド
現在、協議会が認定しているブランドは12種類以上。代表的なものを紹介します。
沖縄あぐー
JAおきなわの商標「あぐー」を冠する、沖縄を代表するアグーブランドのひとつ。はじめてアグーを食べる人の入口になりやすい銘柄です。
琉球あぐー
推進協議会のブランド一覧に、美ら島あぐーと並んで掲載されるブランド。血統や飼料の詳細は生産者の公表情報で確認してください。
美ら島あぐー
沖縄の豊かな自然の中で育てられた、飼育環境の良さにこだわるブランド。
やんばる島豚あぐー
沖縄北部・やんばる地域の自然環境で育てられたブランド。土地の個性が肉に宿る。
パイナップルポークあぐー
飼料にパイナップルを配合した個性派。甘みのある脂が特徴で、沖縄らしさが詰まっている。
紅あぐー
推進協議会のブランド一覧に掲載されるひらがな表記のブランド。「紅」の由来や飼育の詳細は、生産者の公表情報で確認してください。
アグーの肉質、何が特別なの?
アグーが沖縄のごちそうとして長く親しまれてきたのには理由があります。最大の特徴は、脂の融点が低く口の中でとろけていく食感です。くどさがなく、食べるほどにうま味が広がる。しゃぶしゃぶや沖縄そばのだしに使うと、その旨みがさらに際立ちます。一般的な豚肉とはまったく異なるこの感覚を、一度体験すると忘れられません。
またアグーは産子数が少なく発育も遅いため、大量生産ができません。手間と時間をかけて育てられた希少さが、アグーの価値と価格を支えています。
アグーで食べたい代表料理
アグーの旨みを最大限に引き出してくれる料理を紹介します。
しゃぶしゃぶ
アグーといえばまずこれ。薄くスライスした肉をさっとくぐらせるだけで、脂の甘みと旨みがそのまま伝わってきます。締めの雑炊まで飲み干したくなるほど、出汁が美味しいのもアグーしゃぶしゃぶの醍醐味です。
ラフテー
沖縄の豚の角煮。バラ肉をじっくり煮込んだラフテーは、アグーの脂身のとろけ方が格別です。泡盛と醤油でじっくり煮含めると、箸でほろりと崩れるやわらかさになります。
沖縄そばのトッピング
アグーの三枚肉やソーキ(スペアリブ)を使った沖縄そばは、スープにコクと深みが増して別格の美味しさ。沖縄に行ったら「アグーそば」を提供する店を探してみる価値があります。
チャンプルー
沖縄の炒め物「チャンプルー」にアグーを加えると、脂身から出る旨みが全体のコクを底上げしてくれます。ゴーヤーチャンプルーとの相性は特に抜群です。
アグーのよくある質問
Q. アグーと「あぐー」は何が違うのですか?
カタカナは沖縄在来種の豚そのもの、ひらがなはJAおきなわの登録商標です。認定の条件は本文で説明しています。
Q. 「あぐー」と書いてあれば純粋なアグーですか?
限りません。雄がアグーであることが条件で、母に西洋豚を使う交配もあります。見分け方は本文の3点を。
Q. アグーは黒豚(バークシャー)と同じですか?
違います。アグーは沖縄の在来種で、バークシャー種ではないため「黒豚」とは表示されません。黒豚の定義は黒豚とは?で解説しています。
Q. アグーはどのくらい希少ですか?
協議会の統計では沖縄アグー豚は638頭・24戸(令和7年度・飼養頭数)。1981年の調査では約30頭でした。
まとめ
「アグー」と一口に言っても、純粋種か交雑種か、どのブランドか、どんな飼育環境か——で中身はまったく異なります。次に沖縄でアグーを食べるとき、あるいは通販で買うときは、ぜひ「どのアグーか」を確認してみてください。選ぶ楽しさが倍になるはずです。
TokyoPorkPlusでは、沖縄のブランド豚10銘柄を紹介しています。気になるブランドをぜひ探してみてください。英語版はAgu Pork guideをどうぞ。在来種アグーと主要6品種の違いは豚の品種ガイドで解説しています。

