とんかつ、豚汁、生姜焼き。豚肉は今や日本の食卓に欠かせない存在ですが、「豚肉の郷土料理」と聞いて、いくつ思い浮かびますか?沖縄のラフテーや北海道の豚丼あたりは出てきても、その先が続かない方が多いのではないでしょうか。
そこで今回、農林水産省が全国の郷土料理を収録しているデータベース「うちの郷土料理」を使って、豚肉を使う郷土料理が日本にいくつあるのかを実際に数えてみました。結果は意外なものでした。本記事はその調査結果をまとめた総論編で、ここから北海道から沖縄まで全10地域を巡った「豚肉郷土料理の旅」シリーズ(全11回・完結)の入口としてお読みください。
農水省「うちの郷土料理」を全部数えてみた
「うちの郷土料理」は、農林水産省が各都道府県の代表的な郷土料理を、その歴史・由来とともに収録しているデータベースです。本記事の執筆時点で1,363品が掲載されています。
今回はこのうち、肉/野菜料理・汁物・麺料理・飯料理・その他のカテゴリーに掲載されている991品について、「主な使用食材」の欄をすべて確認しました。その結果、材料に豚肉が登場する郷土料理は39品・15都道府県(鶏や猪の代わりに豚を使う料理3品を含む)。地域別の内訳は次の通りです。
| 地域 | 品数 | 掲載されている豚肉郷土料理の例 |
|---|---|---|
| 北海道 | 2品 | 豚丼・室蘭やきとり |
| 東北 | 0品 | — |
| 北関東 | 3品 | ソースカツ丼・上州きんぴら・ばっとう汁 |
| 南関東 | 5品 | サンマーメン・とん漬け・シューマイ・ごんじゅう ほか |
| 中部 | 2品 | タレかつ丼・めった汁 |
| 近畿 | 2品 | 味噌だれ餃子・じゃぶ |
| 中国 | 3品 | お好み焼き・デミかつ丼・美酒鍋 |
| 四国 | 0品 | — |
| 九州 | 11品 | ちゃんぽん・皿うどん・太平燕・豚骨 ほか |
| 沖縄 | 11品 | ラフテー・ソーキ汁・足ティビチ ほか |
数字から見えてきた3つの特徴
特徴①:沖縄と鹿児島だけで半分近くを占める
39品のうち、沖縄県が11品、鹿児島県が6品。この2県だけで全体の約44%を占めます。沖縄には「豚は鳴き声以外すべて食べる」という言葉があるほど徹底した豚食文化があり、三枚肉を煮込むラフテー、骨付きあばら肉のソーキ汁、豚足を使う足ティビチ、レバーのチムシンジと、部位ごとに料理が確立しています。琉球王国時代に中国との交流の中で育まれた食文化が、今も日常に息づいているのです。
一方の鹿児島も、スペアリブを焼酎と味噌で煮込む豚骨、保存食の豚味噌など6品が並ぶ豚食どころ。全国有数の養豚県であり、黒豚の本場でもあります。鹿児島は⑨九州編で紹介しました。沖縄は⑩最終回でたっぷり紹介しました。島の在来豚アグーについてはアグーと「あぐー」の違いもどうぞ。
特徴②:東北と四国は「掲載ゼロ」
意外だったのがこちら。東北6県と四国4県には、豚肉を使う郷土料理が1品も掲載されていませんでした。東北は芋煮に代表されるように牛肉・馬肉・鶏肉の文化が強く、四国も鶏や魚が主役の土地柄。伝統的な「郷土料理」の世界では、豚肉は脇役だったことがデータからも見て取れます。
ただし、豚肉のご当地グルメがないわけではありません。戦後に生まれ、地域に根付いた豚肉料理は東北にも四国にもちゃんとあります。シリーズの東北編・四国編では、データベースに載っていない「新しい郷土の味」を発掘してお届けしています。
特徴③:港町・中華文化との接点から生まれた料理が多い
リストを眺めると、長崎のちゃんぽん・皿うどん、熊本の太平燕、横浜のサンマーメンやシューマイと、中華料理をルーツに持つ料理が目立ちます。ちゃんぽんは明治期に長崎の中華料理店で生まれたとされ、太平燕も中国福建省の料理が原型。日本の豚食文化は、港町を通じた中国との交流から広がっていった側面があるのです。郷土料理の背景をたどると、その土地の歴史まで見えてくるのが面白いところです。
全10地域を巡る「豚肉郷土料理の旅」シリーズ
この調査結果をもとに、地域ごとに1本ずつ(①北海道〜⑩沖縄)、豚肉の郷土料理とご当地グルメを深掘りする記事を公開しました。ラインナップは次の通りです(各記事へはこの記事からリンクしています)。
数字は農水省「うちの郷土料理」に掲載されている豚肉郷土料理の品数。地図から読みたい地域の記事へジャンプできます。
地図:Geolonia japanese-prefectures(MIT License)を加工
| 回 | 地域 | 主な内容 |
|---|---|---|
| - | 総論 | 本記事 |
| ① | 北海道 | 帯広発祥の豚丼、鶏ではなく豚を焼く室蘭やきとり |
| ② | 東北 | データベース掲載ゼロの地で豚のご当地グルメを発掘 |
| ③ | 北関東 | ソースカツ丼、餃子のまち宇都宮、養豚どころ群馬 |
| ④ | 南関東 | 横浜中華街生まれのサンマーメン・シューマイ、厚木のとん漬け |
| ⑤ | 中部 | 新潟のタレかつ丼、名古屋の味噌カツ、金沢のめった汁 |
| ⑥ | 近畿 | 牛肉文化圏の中の豚料理、大阪の豚まん文化 |
| ⑦ | 中国 | 広島のお好み焼き、岡山のデミかつ丼、西条の美酒鍋 |
| ⑧ | 四国 | こちらも掲載ゼロ。今治焼豚玉子飯と徳島ラーメンを発掘 |
| ⑨ | 九州 | ちゃんぽん・太平燕のルーツ、鹿児島の豚骨と豚味噌 |
| ⑩ | 沖縄 | 日本一の豚食文化圏。ラフテーからミミガーまで11品 |
旅先では「郷土料理×地元ブランド豚」という楽しみ方を
このシリーズには、もうひとつ楽しみ方の提案があります。それは、旅先で郷土料理を食べるときに「その土地のブランド豚」にも注目してみることです。
日本には数百のブランド豚(銘柄豚)が存在し、当サイトの日本ブランド豚事典では全国のブランド豚を都道府県別に紹介しています。たとえば北海道で豚丼を食べるなら十勝の地元ブランド豚を使う店を選ぶ、鹿児島で豚骨を味わうなら黒豚のものを探す——郷土料理という「レシピの物語」と、ブランド豚という「素材の物語」を掛け合わせると、一皿の奥行きは何倍にもなります。とんかつに合うブランド豚の記事で紹介したように、同じ料理でも豚が変われば味わいは大きく変わるのです。
39品の郷土料理は、それぞれの土地の気候や歴史が豚肉という食材に刻んだ記録でもあります。この旅を通じて、日本の豚肉文化の豊かさを一緒に再発見していただけたら——そしてその魅力が、いつか海の向こうの食卓にも届いたら。そんな思いで巡った全10地域の旅、まずは①北海道編からどうぞ。
関連URL
出典:農林水産省「うちの郷土料理」
農林水産省「うちの郷土料理 ラフテー 沖縄県」
農林水産省「うちの郷土料理 ちゃんぽん 長崎県」
農林水産省「うちの郷土料理 豚丼 北海道」
最終更新日
2026年09月11日

